いつものとおり自転車で仕事場へ向かう途中
川越芋やが閉まっているのに気がついた。
張り紙がある。
いやな予感。
でも確かめずにおれない。
告別式の案内だった。
一人、年配の女性が同じように黙って読んでいた。
おととい通ったときは、いつものようにさつまいもが焼ける甘いにおいがして、
店主はどんどん曲がっていく腰をさらに低くかがめ、鉄板の守りをしていたのに。
冬の帰り道、自転車をこぐ気力がないとき、ここに立ち寄った。
手のひらに収められた温もりに、どれほど助けられただろう。
告別式の時間を見たが、過ぎた時刻だった。
3月、ようやく春の気配がただよいはじめた路上へ、自転車をこぎだした。