まず、先月、取材で伺った大正時代のお芝居小屋での話。
鉱山会社が隆盛を誇っていた時に、従業員の福利施設として建てられたという、すごぶる美しく立派な建物で、人力の回り舞台など当時の設備が現役で使われている様は、お芝居好きでなくてもワクワクするだろう。現在は国の重要文化財に指定され、小さな町の観光の目玉として海外からも多くの人が訪れるという。
館の方が「本当は取り壊しになるところだったんです」と言うので驚いた。
「ええ!?なんでですか?」
「古いし汚いから」
あ、これと似たような話、どこかで聞いた・・そうだ舞鶴の赤レンガ倉庫。
「古くて汚い」と取り壊しが決まってから、住民の方が立ち上がって、起死回生を遂げたのだ。
どちらも壊されなくて本当に良かった。間違いない。
そして思う「壊していたらどうなっていただろう、この町は」と…
京都大学の吉田寮を壊すことが、どれだけ暴挙であるか、
考えただけで震える話だ。
見学ツアーの最終日、夕方に仕事があったので途中抜けになってしまうけれど、ちょっとでも現寮生の方に話を聞きたくて参加した。
その日の参加者は20人くらいだったろうか。
案内の方が3名。
うち1人がトラメガ片手に
「まず、みなさんお一人ずつ自己紹介を・・・」
と始められた時には、
ジャスト40分のつもりで参加したわたしは「ええ!そこから始めるんですか」と、ちょっと動揺した。
でも、一人ずつ順番に名前を言い、それぞれここにきた理由を語っていくのに対し、案内係のみなさんがウンウンと頷きながら聞いているのを見て、、ああ、これが吉田寮のやり方だったなあと、思い直しました。
自分たちの伝えたいことを伝えるだけじゃなくて、
ここに来られた方の思いも受け取りたいのだと。
外部の人間を拒みそうな外観なのだけど、全然そうじゃないことを、
これまで来させてもらってきて、わかっていたはずなのに。
案内も、用意された資料も、めちゃめちゃ丁寧。
廊下には、白いビニールテープで順路を示してあり
ところどころにある「撮影禁止」など注意事項の張り紙。
2ヶ国語の手書き文字が風に揺れている。
この程よさと、抜け感がすんごい好きだ・・
「吉田寮はもてなし上手」、そんなことを思いました。
さて、、今回拝見したかったのがこちら
「吉田寮in1944」昭和19年の寮生の部屋を再現した」という展示
「京大戰爭遺蹟硏究會」の方によるものだそうで、
1つ1つ丹念に揃えられたことが、パッ見でも伝わってくる
戦中の緊張が漂うも、どこかユーモアもあって、クスッとさせられる。
「1944年だけじゃなくて、いろいろな年で出来るんですが」
この展示をされた方が案内係におられて、ドイツ文学を学んでいるとのこと。
むかしの学生の扮装も、よく似合っておられて、
知性とユーモアセンスを持ち合わせた若い方がおられることに、
心の中で拍手せずにはおれなかったです。
1階を通って、これから中庭に入っていくところで、
残念ながら時間切れ。。
最後尾にいて、案内のお1人にだけ、
こっそり抜けさせてもらうことを伝えて
見学の列から離れました。
見学の一行が中庭を通っていくのを、
横目に見ながら一階の廊下をこそこそと。
すると、見学の先頭で案内していた学生の方が、わざわざ
「今日はありがとうございました」
と告げに来てくれたので、驚き、
「こちらこそです、途中ですみません」と恐縮し、
もう仕事そっちのけで参加しようかなーなんて
悪い心を抑えつつ。
すごい。
恐れ入りました、思いました。
こんなに一人一人に丁寧に向き合ってやってたんじゃ、
時間がいくらあっても足りないよ・・・
でも、これが、めちゃめちゃ大事なことで、
これまで吉田寮が大事にしてきたことなんですよね。
汚いところ、変わり者、としか写っていないのだろう、
こんな姿を、大学側は知っているのだろうか。
大事だと思わないのだろうか。
ジャングルと化した中庭を見て、見学の方が
「伐採や草刈りしないんですか」と尋ねられました。
「うーん。しないですね。その時間は寝てますね」と
答える寮生の方。
吉田寮には「茶室」がある。
そして「各部屋に床の間があるんですよ」と言われて気づきました。
なんと、床の間のある学生寮なのだ。。
床の間。
現代の寮にはまず作られることのない無用の空間。
思い出すのは、2013年に見せてもらった吉田寮しばい
『うつしまパンデミック地獄庚申講踊る亡者の膝栗毛R』
(作・演出: 近衛虚作)
細かい部分は忘れてしまったけれど、めちゃめちゃ面白かった。
台本はあるのだろうけれど、その場で手探りで積み上げていくような、
不思議な舞台だった。
何人か達者な方がいて、その方たち以外はおそらく素人で、
演じているのかいないのか、その人そのものが語っている感じが
すごく面白かったことは強く残っている。
その時の案内や、会場のしつらえも、ほんま
どこまでやるねんというくらい丁寧で、凝っていて、面白かった。
木戸銭はカンパ制。これも吉田寮で徹底していたことで、
そのイズムに、どんだけ教わったことだろう。
それから5年。
エミューや山羊がいた頃に比べて、中庭の緑化が進んでいる(笑)以外は、これっぽっちも変わっていない、寮生の方がたの気質に、胸を打たれる。
吉田寮を取り壊す。
こんな暴挙、本当に止められないのかと、
部外者だけど、悲しく、怒りを覚えてなりません。
*長文お読みいただきありがとうございます。部外者の勝手な思いです。もしも事実誤認や失礼な言及がありましたら、お知らせいただければ幸いです。お詫びし、訂正いたします。加藤わこ拝