6月5日「京都切廻り」の夕方は、細い雨が降り、地面がしっとりと濡れていました。

「京都切廻り」とは、天台宗(比叡山延暦寺)に伝わる行事で、「百日回峯行」と呼ばれる荒業に挑む僧侶(「新行(しんぎょう)さん」と呼ばれています)が、その75日目に、京都市内の社寺を巡拝する日のことを指し、毎年6月の日曜に行われるそうです。
新行さんを先導するのは、「
千日回峰行」を満行された大阿闍梨さま。
「百日回峰行」が1日30キロを100日間巡礼、「千日回峰行」はその3倍、さらに「堂入り」と呼ばれる9日間飲まず食わず眠らずでひたすら祈祷する、まさに命がけの荒業が加わります。その過酷さから、歴史上たったの51人、戦後は14人しか満行者がいないと言いますから、見事成し遂げられた大阿闍梨さま(「北嶺大先達大行満大阿闍梨」と呼ばれます)は、超人としか思えませんよね。
千日回峰行の祖・相応和尚の石像
比叡山無動寺明王堂
撮影:うぃき野郎 さん
(Wikipediaより)そんな51人めの超人・叡南浩元(えなみ こうげん)大阿闍梨様と、直接お話しできる機会に恵まれたのが5月の終わり。
わたしの住まいが高野と言うと「切廻りの帰りにいつも一乗寺の
香寿園さんというお茶屋さんに立ち寄ります」と教えてくださったのでした。
6月5日、まずは朝4時半に自転車で修学院の「赤山禅院」へ。
夜明け前で真っ暗ですが、すでに15人ほどの信者さんが待っておられました。
比叡山へ続く道の向こうに、ぼんやりと提灯の明かりが見え、阿闍梨さまを先頭に切廻りご一行が山から降りてこられました。
行者の証である白装束に草鞋を履いたおそごかな姿は、現代の光景とは思えません。
弟子のために師匠が歩く。互いに白装束を着て。

夜明け前の赤山禅院
一行は、赤山禅院を皮切りに、京都市内の各所を巡られます。
主なタイムスケジュールは以下の通り:
5:00 赤山禅院着
6:35〜6:40 北白川薬師堂
8:00〜8:15 法傳寺
10:15〜40 八坂神社・庚申堂
10:45〜30 清水寺(寶性院)
12:10〜20 六波羅蜜寺
12:55〜13:20 五条天神
15:15〜25 神泉苑
16:05〜40 北野天満宮・西方尼寺
18:00〜10 御霊神社
18:25〜35 下鴨神社
18:45〜19:05 河合神社
(毎年変わります・他にも立ち寄り先があります)
再び赤山禅院へ帰って来られるのは20時くらい。
その前に一乗寺の香寿園さんに立ち寄られるのが、毎年の慣しになっているそうです。
19時前。
香寿園さんへ向かって歩いていると、後ろからコツーン、コツーンと地面にものを打ち付ける音が。
振り返ると、なんと大阿闍梨様ご一行!
コツーンコツーンという音は、大阿闍梨様が地面を叩く大きな杖の音でした。
「やばーい!」
お加持を受けるためには阿闍梨様より先に香寿園さんに着かなければならない。慌てて走りました。
「あの人、ワシらの先回りする気やな」とバレたでしょうか…^^;
急いで香寿園さんに着くと、すでに20人くらいの信者さんが待っておられました。
「もうすぐ来られますよ♪」
初めてなのに物知り顔で伝達するわたし(笑)
「おお、そうですかそうですか」
「ほな、並びましょか〜」
信者さんに混じって一列に並び、膝をついて頭をさげ、待ちました。
コツーンコツーン。
大阿闍梨さまが来られて、1人ずつ、真言を唱えながら数珠で両の肩をポンポンと叩いてくださいます。
その後、大阿闍梨さまはお店の中へ入られ、再び出発されるのを待つ間、信者さん達とお喋りして楽しかったです。
赤山禅院でもすぐに打ち解けられる雰囲気があって、これまでもたくさんのお寺や教会に行きましたが、こんな短時間で友達が出来たのは初めてかも。
大阿闍梨さまご一行が出発された後、香寿園さんが信者さん方に護符を配られて、さらに「よろしかったらどうぞ」と、阿闍梨さま一行のために淹れられたお茶をすすめてくださいました。
「新茶の水出しです」

鮮やかな緑色で、濃厚で甘い。まるで透明なお抹茶をいただいているようです。
新茶がこんなに美味しいなんて、びっくりでした。
大阿闍梨さま達が来られる時間に最高においしくなるよう、逆算して用意されたそうです。
翌日、お礼がてら香寿園さんを再訪。

いつも大阿闍梨さまが飲んでおられるというほうじ茶も購入しました。

どちらも香寿園さんで加工されているそうです。

店内にはこれまでの新行さんが百日回峰行を満行された記念のお札がずらり。

香寿園さんから大阿闍梨さまをお迎えするようになった経緯を伺い、これもご縁ですね、と。
本当に、人の縁は不思議です。
帰宅後、早速、香寿園さんの真似をして水出し新茶を作ってみました。

お水はもちろん赤の宮神社さんの汲み上げ水で。
甘くて美味しい〜
けれど、あの日お店でいただいたのはもーっと美味しかったので、何回かやってみて頃合いをつかみたいと思います。(これも修行??笑)
もう1つ、ご縁が。
わたしの生活道路である「曼殊院道」は、別名
「比叡山不動寺大弁天道」と言い、まさに大阿闍梨さまが住う無動寺への参道だったのです!
20年住んで、初めて知りました。
ちゃんと石碑もありました。

「比叡山無動寺大弁財天道」
そう唱えると、今までの見慣れた道が、にわかに特別なものに見えてきました。(京都には石碑がゴロゴロあるので意識して読まないのですが、ちゃんと読まないとですね…)
香寿園さんから、阿闍梨さまのお下がりでいただいた護符と京都銘菓
阿闍梨餅。

食べ慣れた阿闍梨餅も、ものすごく特別なものに…笑
2022年夏の初め、「京都切廻り」と併せて、水出しの新茶で喉を潤すという、新たな楽しみが加わりました。
【Information】香寿園(こうじゅえん)〒606-8115京都市左京区一乗寺里ノ西町54
10:00~19:00 日曜休
京都市茶業組合の紹介ページ